『オセロー』ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー 


演出グレゴリードーラン 出演セロー・マーク・カヌクーベ他  ル・テアトル銀座 4/18/04 

 以前、英国でシェイクスピア劇を観たとき、情けないほど英語が分からずその場にいながら?状態を体験したことがある。
 しかもその日上演されたのは確か『アテネのサイモン』という聞いたことのない代物であった。内容も知らないし、しかもシェイクスピア英語で、、という二重苦であったが、何しろ席だけは極上の席であった(それしか残ってなかったのだ)のが今でも笑える。
 そしてあれから時は流れ、昨日またまたRSCの『オセロー』に挑戦したのであった。でも通訳のイヤホーンは借りたが。。
 そして、、、果たして、結果はジレンマであった。
 というのも、内容を知っていたので、英語も分かるところは一応あったのだが(せいぜい3割くらいかなあ)、全部ではない。。で、イヤホーンを聞くと、抑揚の全くない日本語が聞こえてきて、内容は分かるのだが、無味乾燥でつまらないし、英語も全く聞けないのだ。。これじゃ、生で観ている意味がない。で、通訳をやめると、今度は内容が分からない〜。そんなことを何十回も繰り返して3時間あまりを過ごしたのであった。ああ、家に帰ったらぐったり。

ところで内容だが、演出が大変シンプルであった。はっきり言うと地味。優雅さがなくて実はちょっと物足りない。色彩はいわゆるモノトーン。ベニスという感じもしないし、貴族らしい服やドレスもないので、どうも登場人物が普通の人みたいに見えてしまう。
 特に侍女エミリアが奥方デズデモウナと同じ身分か、はたまた友達のように見えてしまいどうしても違和感があった。大道具や小道具もお金をかけないという感じの質素なもので、こういうの地味なのが今の流行りらしいが、台詞はそのまま豪華絢爛なシェイクスピアなので、常に物足りなさと不自然さがつきまとった。

 しかし俳優陣は素晴らしい。特にオセロー役は良かった。前半は少し退屈したが、後半は盛り上がりを見せて、イヤホーンもそれほど気にならなかったから不思議だ。ただ、昔ビデオで観た映画の方が感動したかも。。
台詞が全部分かれば、また別だったのかもしれないが、特にシェイクスピア劇は言葉に頼るところが大きいのであった。
それにしても、初めは地味過ぎて納得できなかったデズデモウナが最後には衣装のせいもあるだろうが、それなりに見えてきた。華やかさはないが、純粋さを基準に彼女を選んだのだろう。清純な感じのする女優である。

 今回この芝居を観て、私は幻想というものになんと人間は捕らわれやすいものかと改めて思った。しかもそれは自分自身で創り出したものである。確かにイヤーゴウにそそのかされはしたが、それを現実化したのは紛れもなく本人なのである。
 昔映画を観たときはイヤーゴウはなんて嫌な奴だろうと思ったが、今回はそう思わなかった。彼は単なる仕掛け人にすぎない。
むしろオセローを通して人間が陥りやすい幻想というものの恐ろしさを垣間見たのだった。
そして嫉妬とは不安に根ざした愛と敵対するものであり、人を殺す力すら持つ。
そして、それを避けることが出来るのは、やはり愛ではないだろうか。というより愛しかないのではないか。

 そういう意味ではオセローは本当の意味でデズデモウナを愛していたのではなかった。そう彼は愛していたのではない。幻想を愛したのだった。だからこそ身を滅ぼしたのだ。彼は試されて、ついに応えることが出来なかった。 

 それからもう一つ、昔気づかなかったことだ。デズデモウナを美化しすぎていたからだ。だが、彼女も間違いを犯している。敢えて言えば、それは無知から来ている。彼女が夫に美男の部下をあれほどまでかたくなに受け入れるように主張するという行為が果たして、賢明な女性のやることだろうか、ということだ。昔はそうは思わなかった。だが今は違って見える。それが彼女の優しさというよりはむしろ無知から来ているように思われた。それだからこそ、彼女は悲劇の渦中に投げ込まれる填めになったのではないか。もしそれに気づいていれば、悲劇にはなりようがない。しかも夫を説得することも出来ないくらい無力であった。
 イヤーゴウを悪者にしてこの物語を片づけてしまうことは簡単だ。だが本当にそれだけだろうか、ひょっとするとシェイクスピアはそんなことを私たちに問いかけているのではないか。
君たちはイヤーゴウではないかもしれない。しかしオセローにあなたがならないと言えるだろうか。もしオセローやデズデモウナと同じような立場に置かれたとき、あなたならどうするか? 悲劇を避けられるだろうか。それとも?

 幻想に惑わされないだけの真実を見抜く力と愛を信じる力こそが、私たちが培うべき最も大切なものなのかもしれない。

4/19/04

Posted: Sun - April 18, 2004 at 10:09 PM      


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