『10ミニッツオールダー イデアの森』★★★


8人の監督による10分の短編映画
 ベルナルド・ベルトルッチ/ マイケル・ラドフォード  /ジャン=リュック・ゴダール他1/13鑑賞 


10分づつの短編映画を大物監督たちが撮ったものというので、面白そうだと思い観てきました。まずはテーマが時間というイデアの森。

合計で8本ありましたが、人によって恐らく好みが分かれるのだろうと思います。これが一番という人もいれば、最悪と思う人がいるんじゃないかと思う。でもそれでいいんだと思うし、面白いところでもある。以下に書くのは私個人が感じたまま正直に書いたものです。基本的に興味を持った作品についてだけコメントしています。こんな風に思う人もいるのだなあという感じで軽く流して読んでいただければ幸いです。
正直なところ、途中で退屈した作品もありましたが、後半はそれを挽回するに十分なほど楽しめたので、行く価値はあったと思っています。

まず、初めのベルトリッチの作品。
分かりやすく無難な作品で、なぜかとても10分とは思えないほど長く感じた。時間の広がりがあったのかもしれない。最初のところで、お兄さんがのどが渇いたので、弟に水を汲んできてくれと頼む。そして水をくみに行く弟。ところがその途中で女性に出会い、それから結婚し、子供も出来てと時間が流れていく。観ていて、お兄さんの所に行かなくていいのかと気になっていて、それがそのままだったら、すごく不満だったが、最後にやはり時間が止まっているかのようにお兄さんの所へ行く。弟は年を取り、兄は別れたときのまま。。
でも残念だったのは時間のずれとか、歪みのようなものがぐっと迫ってこなかった。そんな風に思ってしまうのは、恐らくその二日前に同じ10分でも、もの凄いエネルギーと細心の注意で創られたロシアアニメーションを観たせいか、仕事の粗さが見えてしまったのかもしれない。というよりも彼が長編向きの作り手ということなのかもしれない。

3昨目のイジーメンチェルの作品。
実在する俳優の若き頃から、老いた日に至るまでの映像で埋め尽くされている。若い頃の映像が流れている時間が長く、それはちょっと緩慢な感じだったが、印象的だったのは一番年老いた顔が写ったとき。この人もうこの世にいないんだなあというのが分かってはっとした。

4作目サボーの作品
なんだかサスペンスのように話が進んでいき、実はもっと続きが観てみたかった。10分前と後では天国と地獄ほどに世界が変わってしまったというのが、とても実感できる。観客は夫思いの女性主人公と同化し、10分前には楽しい食卓を囲む空想に夢ふくらませていたのに、10分後には投げやりで冷たい夫をひょんな勢いで刺してしまった自分がいる。恐ろしくも信じがたい変化に茫然自失となる主人公。だがそういったことは本当に起きるかもしれない。

7作目 ラドフォードの作品
実は、好み的にはこの作品が一番好き。出だしからして、ワクワクするような宇宙映像。メランコリックで情感たっぷり。ストーリーも良かった。それに宇宙の長旅から帰ってきた身体検査で、10分しか年をとっていないというのは、やはり笑える。そして美しいロボット女性が出迎えるので、私の満足度は一気に上がっていく。未来を映像化するというのは未知の世界を創造することでもあり、未来がとにかく凄く見てみたい人間の私は、その手の設定にはたまらない魅力を感じている。
 まだ男の色気の漂う宇宙飛行士は、瀕死の老人に静かな再会をする。これが彼の別れた息子なのだが、残念だったのは写真ややりとりだけで、十分分かるのにどうして、「パパ」と呼ばせてしまうのか。。ああもったいない。といっても、この作品のお陰で私はようやく満たされた気持ちになりました。監督にありがとうと言いたい。

8作目 ゴダールの作品
はっきり言って、私にはゴダールを語る資格も知識もありません。しかしゴダールを酷評する人は知っています。あまりに酷く言うので、そんなにひどいのかと思って大昔に観た『勝手にしやがれ』は私には痛快で楽しめたし、かっこいいとさえ思った。でもそれ以来観ていなかった。
恐らくゴダールという人はすごく嫌われるか、好かれるかの両極端に別れるタイプなのではないかと思う。それだけある意味で凄いと私は思うのだが。。実はこれを書く前にちょっとネットで感想を読んでいたら、やはりゴダールを酷評する人がいた。私はとても不快に思って、よし書いてやるぞと思った。
実際、私はゴダールに一票入れました。そうラドフォードではなく。。
なぜか?
もちろん好きなのはラドフォードの作品の方なのだが、ゴダールには凄いインパクトがあった。おそらく短編に向いている人なのだろうと思う。しかも10分という時間にこれでもか、というくらい詰め込んだ。
別にある意味で、内容なんてどうでもいいのだ。観るものにある種の刺激とインスピレーションさえ与えてくれるならば。。
そう思わせてしまうのがゴダールだった。なんというのか理屈はいらないという感じ。とにかくぼおっとしていた私にある種の刺激が与えられたのだった。そしてお陰で私の脳細胞は活性化されたように思う。その勢いで私はゴダールに入れたのだった。
説明しようにもできない、それが彼の作品であり、持ち味。でも観ているものを攪乱し、何か考えろと叱咤激励しているようにも思われる。
実際、私は考えた。「・・・の最後の瞬間」という10のシナリオ。これからゆっくり考えて楽しもう。自分にとって、・・・の最後の瞬間とはどういうものであるのか。人にも聞いてみたい気がする。変な人に思われそうで躊躇されるけれども。。
出だしの「夜はなぜ暗いの?」この提起だけでも、私は十分楽しめる。カットで入る台詞がすごく小気味よく私の心に響いた。「失われた時しか見えない」「存在しない時を語る」「消えた場所を語る」台詞の一つ一つに問いかけと暗示がある。それを考える楽しみ。
個人的には、「思考の最後の瞬間」で、本が黒いゴミ袋に捨てられていくのが気に入ってしまった。そして台詞も。。「我々は無を語れないから、世の中には無数の書籍がある。すべての肉体と頭脳を寄せ集めても、ひねり出せるものは一握りの慈愛にも満たぬ。」実際そうなのかもしれないと思う。

以上

(ちなみに、この時はまだ『人生のメビウス』は観ていなかった→宜しければ、『人生のメビウス』の感想もご覧下さい)


Posted: Wed - January 14, 2004 at 12:44 AM      


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