『太陽』アレクサンドル・ソクーロフ


ロシア人監督が昭和天皇を描く

日本では公開させるかどうか危ぶまれたという作品。
というのも、天皇陛下を主人公に描いたという映画だという。。

見終わってとにかく私が思ったのは、
なぜロシア人監督がここまで
日本の昭和天皇を愛情深く撮ることができたのか?
ということだった。

しかし同時に日本人ではないからこそ
ここまで一人の人間としての天皇陛下像を描くことが
出来たというのも事実だと思う。

全編に渡って流れているのは、張りつめたような静謐な空気。
そこには、日本人俳優の尋常ならない作品への思い入れが感じられる。

なんというのか、日本人の誇りをかけて演じているという尋常ならない気迫が
画面に溢れていて、それが観る者を感動させるのだ。

特に天皇陛下を演じたイッセー尾形は素晴らしかった。
まさに神がかっていたようにさえ思われる。

舞台は敗戦直前の瀬戸際。。
場所は主に皇居に急遽造られたという退避壕の地下室。
東京は皇居の他、全て廃墟となり果て、後は降伏を待つのみ。。

そうした張りつめた絶望の中、舞台では薄暗い光の中、
静かな生活を淡々と営む天皇陛下と侍従とのやりとりが描かれる。
現人神から人間になるまでの過程。。

神として扱われている天皇の台詞に
「私の体も同じだ、君のとね」
というのが冒頭部分に出てくる。

神としての立場に戸惑う姿が度々描かれていくが
最後には、皇后に向かって次のように言う。
「私はね、成し遂げたよ、、これで私たちは自由だよ。。」
「何をなさったの」
「私はね、もう神ではない、、、この運命を私は拒絶した。」

博学で家族思いであり、自然を尊び
平和を願う。。時にはユーモアも見せる。
そうした愛すべき天皇像。。

監督のソクーロフは昭和天皇と日本にとても好意的であり
愛情深く描いてくれた。

これは日本人が観ると、かつて敵国でもあったロシア人がここまで日本の天皇ことを
思ってくれているのか、、とそのことだけでも感動してしまう。

映画館に貼ってあった記事によると、監督は昭和天皇に
とても感謝しているのだという。

というのも、ドイツのヒトラーが昭和天皇に
シベリア出兵を要請したとき、拒否してくれた。

そのお陰で彼の祖先が生きながらえることが出来たからだと言う。
彼は歴史学専攻で日本の歴史にも詳しく、日本のことをとても好きだと言う。

昭和天皇がかつて撒いた種が時を経て
映画という形となって帰ってきたかのようでもあり、感慨深い。

これは単に日本の天皇を描いているだけでなく
それを通じて、ロシアと日本の平和への架け橋にもなりうる
素晴らしい映画ではないだろうか。

外国のことを私たちはこれほどの愛情を持って
果たして描くことが出来るであろうか。

そう問うたとき、ソクーロフ監督の偉大さが推し量られる。


最後に、ロシアと日本にはその根底で相通じるものがあるように思われてならない。



Posted: Wed - September 13, 2006 at 07:32 PM      


©