『ミトン』『レター』『ママ』★★★★


『ミトン』1967年『レター』1970『ママ』1972年 ロマン・カチャーノフ監督  ソ連人形アニメーション 渋谷にて [絶賛]

渋谷のユーロスペースに行くと、すでに行列が出来ていて立ち見だと言われた。実際私たちの後ろで切られたので、本当にぎりぎり。夕刊に出ていたかわいらしい写真に惹かれて行ったのだが、混んでいるとは予想していなかった。小さな館内の一番後ろに立って観たが、わずか30分なのでかえって良かったかなとも思う。

それにしても、上映する前から、なんとなくレトロな雰囲気が漂っていた気がする。あの狭くてでも満員立ち見というのが、いい感じだった。
そして、始まってみるとあっという間だった。人形たちが本当に息を吹き返したように演じていて、それがとても自然。せりふは一切なく、音楽がさりげなく流れているだけ。
ああ、ロシア的だなって思う。あのしみじみとして、しかもせつない感じ。作品はどれも芸術性が高く、それでいて子供も楽しめるもの。ユーモアあり、ドキドキあり、思わず胸がきゅんとするようなシーンあり。

『ママ』

母親が留守時の子供を心配するのだが、観ているときは、実際男の子がとんでもないいたずらをしたり、事故にあったりしているのだとハラハラさせられる。しかし最後になって、それが母親の空想の出来事だというのが明かされ、それがなんとも絶妙だった。自分が実際母親にでもなったような気持ちを本当に実感したと思う。母の子供を思うひたむきな愛情に触れた気がした。
『レター』では、船乗りのお父さんを待つ母親の、窓辺で肩肘をつきながらの憂いを帯びた表情が印象的。手紙をどれほど待っているのかというのが、痛いほど伝わってくる。微妙な表現がここまで人形でできるとは、驚いてしまう。しかも10分という短さで。男の子が夜空をバルコニーの船で飛び、お母さんを救いに行くというのがファンタジーなのだが、それがとても当たり前のことのように自然で、思いに溢れている。温かくしかもせつない。

『ミトン』(手袋)

代表作だが、まず主人公の女の子の可愛らしさにもう惹きつけられてしまう。しぐさや動き、表情どれひとつとっても愛らしさに溢れている。そして対照的なのはその母親で、タバコを吸って、ソファにふんぞり返って雑誌などを読んでいる。女の子は窓から、外を覗いているが、どれも楽しそうな犬を連れて、散歩を楽しんでいる。女の子は自分も犬が欲しくてたまらない。近所のうちの子犬を思わず連れてきてしまう。でもお母さんはだめだと言う。

その後がっかりしながら、片方がほつれた手袋を引きずって、雪の積もった外の道を歩く。女の子は手袋を子犬だと思って、遊び始める。すると、手袋がたちまち世にも可愛らしい子犬(ミトン)に変身する。女の子は大喜びで、子犬を抱く。自分も子犬を持てた幸せでおおはしゃぎ。

その後、犬の競技会の看板を見て、ミトンも参加する。大活躍で、あわや優勝というとき、毛糸のほつれがひっかかって、走れなくなってしまう。ミトンは悲しみ女の子がミトンをしっかり抱きしめる。
家に帰ると、女の子はミトンにミルクをあげようとする。お母さんは不審に思い、廊下で女の子を見つけるが、ミルクの前にあるのは、片方の手袋だけ。。

ここで私たちは一種の衝撃を受ける。女の子には子犬に見えるのに、お母さんや観客の私たちには、ほつれた赤い手袋にしか見えない。。女の子はお母さんにかまわず、手袋をそっと撫でている。その時の、女の子の手袋を慈しむように撫でているあの優しい手つき。。そのシーンだけで思わず泣きそうになってしまった。あのシーンにこの作品の全てが凝縮されている。

このせつない感動はチェーホフのわずか数頁しかない短編『ワーニカ』を読んだときのそれと似ていた。主人公の子供があまりにひたむきでせつなくて、どうにもならなくなる感じが。。
物語はそこでクライマックスを迎える。その光景を見たお母さんは私たちと同様、衝撃を受け、最後に女の子のために子犬をもらいに行くところで終わる。

これもわずか10分にもかかわらず、私はすっかり魅せられ、ミトンの虜になってしまったのだった。


Posted: Mon - January 12, 2004 at 12:30 AM      


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