『サロメ』アイーダ・ゴメス スペイン舞踊団 Bunkamuraオーチャードホール 3/7 ◎



 舞台『サロメ』をオーチャードホールで観てきました。実に素晴らしかった。二部構成になっていて、一部はフラメンコの小作品が並ぶ。最後にアイーダのソロが入ったが、彼女の動きの速さ、機敏さに驚いた。パンタロン姿で踊る彼女は、まるでバレエを観ているかのように、くるくると見事な回転を披露するかと思えば、男性的な闘牛士のような動きの中に、かっこ良さだけでなく、女性的な可愛らしさや艶めかしさを同居させていた。 
 アイーダの振り付けによるものは、なにしろ色気があり、女性たちがとても艶めかしかった。今まで観た舞台の中でこれほど艶のあるものはないと思う。いつもは男性陣の踊りに夢中になる私だが、この舞台に限ってはアイーダの振り付けによる女性たちの魅力の方が勝っていたように思う。

 そして第二部がいよいよ『サロメ』だ。私は前に映画を一度観ているが(映画『サロメ』の感想も載せています)、同じものなのに随分と印象が違った。まず映画では表情がアップで映し出されるために、アイーダが凄みのある女性に見えた。だが、実際舞台では神がかった表現力に圧倒されながらも、彼女の愛らしさや艶めかしさが強く印象に残った。
 あと洗礼者ヨハネのキャストが違っている。映画では黒人のように色が黒かった気がするが、舞台では白さを際だたせていた為に、ヨハネの印象がよりオスカーワイルドの原作にあるようなイメージに近かったように思う。演出も少し違っていたようだ。私は舞台の方がより自然に受け止められた。ヨハネの役はとても重要である。何しろサロメが狂おしいほどの恋心を抱く相手なのだから。舞台の方が愛しながらも拒絶されてしまうという男女の機微がより一層上手く表現し得ていたように思う。恐らくキャストの違いだろう。

 それにしても、映画に劣らず舞台でのアイーダは凄まじかった。踊りながら失神してしまうのではないかと思われるほど、彼女の全てを出し切っていた。そう惜しみなく全てをさらけ出す彼女の姿に感動しない者はいないだろう。まさに天才としかいいようのない領域に達している踊り手なのである。

 七つのベールの踊りが熱気と共に終わると、一瞬にして闇に包まれる。首となったヨハネにしがみつくサロメ。最後に白くて長い布に巻き上げられて彼女が絶命し、高く担がれて葬送される場面では感極まって涙ぐんだ。サロメの世界にすっかり引き込まれていたからである。映画を観たときは感動したが泣くまではいかなかった。舞台ではやはり生身という迫力が違っていたし、アイーダの素晴らしさが舞台ではより一層印象づけられた。そして何よりも彼女がこの上なく官能的な踊り手であり、だからこそ今、サロメをここまで踊れるのは彼女しかいないのではないかと思うほどであった。
 映画では表情が全て見えたために、サロメの苦悩と凄みが印象的だったが、舞台では(席が一階の後ろの方だったこともあるが)彼女の肢体と動きがこの上なく官能的であると同時に愛らしさも兼ね備えていると思った。
 それにしても、主役を踊るだけでなく、振り付けや芸術監督までこなす才能というのは正に天からの素晴らしき授かりものとしか言いようがない。まるでアイドルのような愛らしい笑顔で映っているプロフィール写真からは想像もつかないような神がかった才能の持ち主である。

 最後に、舞台挨拶で鳴りやまない拍手の嵐の中で、踊り手たちが和気あいあいと一人ずつ余興で踊り始めた。ホールには観客の手拍子が鳴り響き、その中でダンサーたちの手拍子と共に一人、二人と踊り出し、最後にはアイーダまでもが楽しそうに踊り始め、コミカルな面をまで披露してくれた。これがフラメンコの本来の姿なのだろう。悲劇で幕を閉じた重苦しい空気が一掃され、会場は明るくて楽しい雰囲気に包まれていった。恐らく15分以上続いたのではないだろうか。とても楽しい時間であったし、その場にいたことを幸せに思う。

Posted: Sun - March 7, 2004 at 10:11 PM      


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